(12/15)ショート・ショート ゴッゴル


 

 広い宇宙の中ただ一つ生命を持った地球。いや本当は一人ではないはずだ。

 澄み切った夜空の向こうに満月が見える。

 こんな夜は何だか胸騒ぎがする。

 ずっと心の中にしまいこんでいた思い出。そんなようなものだろうか。
 実際こんな思いをしたのは初めてである。 

 とその時だ。夜空にすっと一筋の光が横切った。む何だろう。またすっとである。
 町の向こう側が明るくなった。
 これが終わりの始まりとはそのとき考えてもいなかったのだ。

 その日はそのまま、眠りについた。明くる日は今日の続きが来るはずであった。
 しかし、それは見事に打ち破られたのである。テレビをつけると、アナウンサーかせ何やらまくし立てている。巨大隕石の追突現場より中継とか言っている。テレビのカメラがその現場を映し出す。隣町だ。隣町の丘の中腹に大きなクレーターのような穴があいている。
 それは爆発が起こったかのように辺りの木々がなぎ倒されているのであった。
 突然その場所に行きたくなった。特に深い意味はないが・・・心の底からの叫びとでも言うのであろうか。

 

「何だか落ちた隕石は見つからないらしい」
「空中でバラバラになって落ちた時に燃え尽きた」
「UFO?」

 かろうじて何とか近づい見えたが、あたりは焼け焦げた跡しかない。

 とその時だ。

『ゴッゴル』

頭の中で何かが弾けた。強烈なイメージの洪水。

『ゴッゴル』

その場に倒れこむ。
「大丈夫か」
「・・・いやあ、大丈夫です」
とれあえず、その場を後にした

 

自宅に戻ってからも頭の中ではゴッゴルが鳴り響いている。一体これはなにものか。
一定の間隔でゴッゴルが、きている。いや本当にきている。明快なイメージをともなったゴッコル。次第にそれは大きくなっていく。

ゴッゴル
ゴッコル

おびただしい光が目の前に襲ってきた。
あるものは輝きあるものは明滅する。
旋回と出現を繰り返しながら繰り広げるファンタジー

ゴッゴル

あふれ出る未知のイメージ
今まで経験したことのない甘美な快感
何時までもつづく危険な香り

ゴッゴル

現実感の喪失
浮遊する言葉。観念の世界。幻覚のなかの覚醒
未来の記憶。時間の消失。

ゴッゴル

きわめて厳格なポリシー
回転する感情。飛び交う規制。瞳の中に映る希望。

ゴッゴル

ほんやりとした境界線
降りしきる雨?。
悲しすぎる現実。絶望と叫び。

ゴッゴル

前方の光、後方の闇

ゴッゴル、ゴッゴル、ゴッゴル。

 


 気がつくとむわっとした、熱気があたりを包んだ。地下に続く階段は懐中電灯の光に照らされた一条の光が底のほうまで伸びていた。

 ここはどこだ。カサッと背後で音がした。つけられたかと振り向くと何も無い。気のせいかと安心していると別の方向からカサカサと音がした。
「だれだ」
叫んでもだれもいない。背中に冷たい汗が流れる。いつのまにか腰につけた拳銃に手をかける。もう一方の手で照明弾に手をかける。
(なぜそこについていたかは記憶にない)
その時だ。
「ウォオオ」
とっさに照明弾をうなり声の方へ投げる。巨大な影が現れた。すかさず銃弾を装填し放った。
「ギャアア」
この世のものとしないうめき声をたててそいつは崩れ落ちた。額に汗がじっとりとかいている。

「ハァ、アッはあ、ハア」
 呼吸が荒い。落ち着け。そう自分に言い聞かせてさらに前に進んだ。目の前に扉が見える。鍵はかかっていない。鉄製の扉は鈍い音を立ててゆっくりと開いた。ザザっと砂利のようなものを踏みつけなながらいくと、懐中電灯の光に四角い箱が照らしだされた。
「これか、ゴッゴルは」
恐る恐るその箱を抱き寄せた。

「そこまでだ」
その声と同時にピュンと玉がかすめとんだ。
「なに?!」
ゆっくりと振り向くと長身の男が銃をもってたたずんでいた。
「ようやく会えたよ君に」
「だれだ」
「なに名乗る程では無いがね」
「貴様ぁ」
もう自分には理性がなかった。もう、強暴な感情の塊に成り果てていた。
「おおっと、無駄な弾は使わない方がいいんじゃないかね」
また耳元で風をきる音がした。落ち着け落ち着くんだ。
「さあ、これで終わりにしよう」
とその時だ。頭の中に声が響いた。
「いいか、やつの足元に飛び込んで撃つの」
とっさに前に飛び込み必死になって引き金をひいた。
「うわっ」
もう一発。さらに一発。憎悪の感情が沸き立つ。
「このくらいでいいだろ。さあ早く外へ」
「お前は」
「後でゆっくり話すワ。さ早くその箱を持って」

 

 急いで階段を上る。外に出る。どうやらうらさびれた倉庫街のようだ。
前に見なれない流線型の車があった。手招きする女性。
「さ、早く乗って」
黒髪にピタリとしたボディスーツ。歳は25歳ぐらいか。
「質問はあと。乗って」
そうするや否やタイヤをスピンさせて走り出した。
後ろから追っ手が。右へ左へと、車は揺れ動く。
「さあ、ゲームの始まりよ」
彼女はアクセルに力をこめた。体にGがかかる。内臓がえぐられるようだ。
「・・・しつこいわね」

 ドリフトをかけながらきついL字状のクランクを回りきった。後方で衝突音。
「まだまだね」
たかなるエンジン。続く加速。
「さあ、しっかりつかまって」
前方に運河。
「な、何。無理、無理」
「黙って!!。舌かむわよ」

 

 とそのとたん、車は大きく段差を乗り越えた。
ふわっとした浮遊感。と突然の衝撃。そして着地。後ろで衝撃音。

「どうやら済んだようね」
「君は一体・・・誰、ココは・・・どこ。」
「そう思うのは無理ないわね。私は一種のエネルキー体なの」
「へ?」
「そして、ここはあなたの世界とは別の次元」
「それって、もう戻れない!」
「大丈夫。安心して。あなたはエネルギーに同調したの」
「それって」
前方の流れ行く景色を見ながら、つぶやいた。
「受信したの。私達の世界と。」
風景がだんだんと街から海岸へと変わる。
「もしかして、ゴッゴル」
「そう。その一部がゴッゴル。墜落は予想外だったわ」

 

 彼女は砂浜に車を止めた。
「降りて」
静かな海。潮の香り。
「ここはイメージの世界なの。けど私達は追われているの」
「どうして」
「それが必然だからなの」
歩きながらつぶやいた。
「常に、善と悪、表と裏が存在する。どちらとも一方だけじゃだめなの」
「なんかよく解からないなァ」
「いいの。解からなくても。感じ取るものだから」
彼女は立ち止まった。
「その箱をちょうだい」
「ああ」
持ち抱えていた箱を手渡した。
「これであなたともお別れね」
「え?」
「さあ目を閉じて」

 

 ゴッゴル
 ゴッゴル

目を閉じると、光の洪水に包まれた。

 ゴッゴル
 ゴッゴル

体の自由が利かない。何か熱い。

 ゴッゴル
 ゴッゴル

脈打つように流れるエネルギー。

「うわぁぁ」
気がつくと部屋の中にいた
「何だったんだアレは」
ボウっとした頭。強烈な倦怠感。
ふと、部屋の片隅に置いてあるコンピュータを見た。
画面にゴッゴルの文字。
「ゴッゴルか」
無意識にコンピュータの電源を落とした。
「終わったのか?」
もしかするとこれは始まりだったかも知れない。

−−おしまい−−




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